Designated Producers

2018年度神戸肉枝肉共励会・名誉賞[宮田畜産]宮田靖仁さん

独立して13年、若き新鋭の牛飼い

2018年度の名誉賞を受賞した神戸牛を出荷した宮田畜産は、朝来市和田山町にあります。30頭いれば大きい牧場と言われる朝来地区において現在、母牛80頭、子牛35頭、肥育牛100頭を有する宮田畜産は、最大規模を誇ります。
「わざわざお越しいただき、すみません」と出迎えてくださった宮田靖仁さん。43歳の若き牛飼いと聞いてはいたものの、黒い博労服(ばくろうふく)、左耳にはピアス、キレイにトリミングされたヒゲ…独特の雰囲気をまとった宮田さんの世界に一気に引き込まれて行きます。
ご実家が畜産農家だったため、将来、畜産業に就くのが当たり前だと思いながら牛の世話をしていた幼少時代。農業大学校を卒業後は、複数の牧場で経験を積んだり、肉のことを学ぶために肉屋で修業をしたり。実家の牧場から500mほど離れた東河川沿いで、廃業予定の農家の後を受けて自身の牧場を構えたのが30歳だったといいます。
「今でこそ多くの牛を扱っていますが60頭からのスタートでした」「増頭をはじめた頃、原因不明で肺炎や病気にかかる牛が増えて大変でした…」「子牛の相場がどんどん下がり、今の2分の1、3分の1程度にまで落ち込んだこともあって。もう廃業しようかと真剣に思ったこともあります」と、当時の苦労話をポロポロと語る宮田さん。どん底から再建できたのは、いろいろな人の意見を取り入れ、必死に牛を守ろうとした彼の努力の賜物。そしてそんな宮田さんを支えた、家族のパワーのようです。

期待以上に応えてくれたチャンピオン

牛舎を見学させてもらうと、入口に小さな子牛が隔離されていました。育児放棄されたのだといいます。母親が産みっぱなしの子牛を、親が舐める代わりに宮田さんがタオルで羊水をふきとったり温めたり。「そして朝晩、妻がミルクをやってくれたおかげでここまで大きくなったんです」と優しいまなざしを子牛に向けます。以前は、育児放棄や早産の牛は死んでしまうことが大半でしたが、今ではノウハウを身につけた夫妻が交代で面倒をみるので、元気に大きくなるといいます。
パートやアルバイト、実家の父親が手伝ってくれるとはいえ、大半は宮田さんがひとりで切り盛りしている牧場の現状。その頼れるパートナーが奥様の静さん。現在、朝来家畜保健衛生所に勤めながら、牧場を手伝ってくれています。静さんの実家は淡路島の酪農家。「やはり乳牛とでは違いはあるけれど、牛を育てるということは同じだから」と宮田さん。牛に囲まれて育ったふたりゆえ、牛への想いや感情が一致するのでしょう。
実は、今回チャンピオンになった牛も、1ヶ月早産でした。夫妻だけでなく子供達も手伝ってミルクをこまめにやって育てたのですが、なかなか大きくならず、弱々しいまま。そこで子牛のセリに出すことをやめて手元に置いて育てていたら、肥育18ヶ月頃からエサをしっかり食べ、よく寝るようになり、どんどんと肥えて、いい体型になったのだそう。取材の冒頭で、受賞の勝因を聞いた際に「牛が期待以上に応えてくれたんです」と、返答してくれた言葉の真意がここにきてよくわかりました。

  • [宮田畜産]
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牛も人も。受け継がれていくDNA

家族で愛情をかけた1頭がチャンピオンに。いろいろな想いが入り交じったことでしょう。必ず1日1度は牧場に顔を出すという宮田家の子供達。牧場には子供達が飼いたいとねだったヤギをはじめ、ニワトリやウサギ、犬もいて、家畜とペットの違いを自然に体感できる環境で、子供達はエサをやったり、遊んだり。
「もっと手伝ってほしいと思いますが…僕の場合は牛やこの仕事が好きだったから壁はなかったけれど、実際、大変な仕事なので」押し付けず、自主的に動くことを期待している宮田さん。それなら安泰でしょう。
なにせ11歳の長女は出産予定日を把握して「生まれた?」としきりに気にかけ、9歳の長男はセリの名簿を見ながら、どんな血統の牛が出ているのかをチェックするのが趣味。そして2歳の次男は大きい牛にも怖がらず近づくほど、牛が好きだというのですから。
これからは繁殖に力を入れていきたい宮田畜産。現在、自家産牛30%でまかなっている肥育素牛の数を増やすのが最初の目標です。そこで獣医に年間のワクチンプログラムを組んでもらったり、専門誌やインターネットで最新情報収集を取り入れるなど、減少した事故率をキープするための対策もしっかり練っています。「最終的には兵庫県下の希少血統の牛を連れて来て、よりよい牛を作りたいと思っています」。
その起爆剤となるのが、大学時代の同窓生の活躍だとか。畜産、酪農、果樹園、農家…違う舞台でそれぞれ頑張る姿を目の当たりにし、自分を鼓舞するといいます。
牛飼い三世といえ、先々代・先代からすべて引継ぐのではなく、多方面に渡り勉強し、広い交流関係を築き、自身の王国=牧場を切り開いた宮田さん。新世代の旗手と言っても、過言ではありません。