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2017年度神戸肉枝肉共励会・名誉賞[太田畜産]太田克典さん

ダブル受賞、最多受賞の快挙

「平成29年度 神戸肉枝肉共励会」にて見事に名誉賞を獲得。しかもめすの最優秀賞もダブルで受賞した太田畜産。名誉賞の最多受賞という快挙のうえに、コンスタントにA5-12と評される神戸ビーフを出荷し続けています。良質の牛を次々と生み出す秘訣を探るべく、但馬の山あいに広がる牧場を2年ぶりに訪れてみました。
前回の受賞時より3棟増えて13舎あるという牛舎。ストレスのない快適な環境をと、他の牧場より高く作られた天井には大型扇風機を備えつけています。「(扇風機の導入は)今でこそ、どこでもやってるけど、うちではわしが仕事を始めた頃から。30年になるかなぁ。但馬牛は寒さには強いけど暑さに弱いので、夏が快適になるし、床も乾いてええんや」と社長の太田克典さん。18歳で稼業を手伝い始めた頃は100頭だった牛を1,600頭まで増やし、大規模牧場を築きあげた敏腕牛飼いです。
スタッフも10名に増えたので、社長は悠々としているのかと思いきや「今も同じや。皆と一緒に朝7時には牛舎を見回り、エサを与えたり、掃除したりしとる」。子牛の買い付けも「息子を連れて行くけれど、まだ任せられんなぁ」と言いながら、自分が厳選して買ってきた牛たちに優しいまなざしを注ぎます。

但馬牛を守る使命感

「ダブル受賞の勝因?わからんけど、ここ数年で力を入れたのは繁殖やね」と案内してくれたのが50頭もの妊娠牛が集う牛舎。妊娠牛たちは一心不乱に食事中でした。
親の代から繁殖も少し手掛けていたそうですが、今では常に150頭もの妊娠牛が出産の時を待っている状態だそう。ちなみに牛の妊娠期間は285日間。1年のうち、残りの80日で種付けのタイミングを計ります。隣の牛舎には、出産間近の牛と、出産を終えた親子が穏やかに過ごしていました。
なぜ、繁殖に力を注ぐのかという問いに「皆、農家の人の想いは同じやと思うけど」と前置きをして「肥育は簡単やけど、素牛の但馬牛を大事にしなければならん。生産頭数が減っているので、肥育する人間が繁殖にも力を入れて、但馬牛の血統を守っていくのが大事だと思う」と、力強く語ってくれました。
そして「今や神戸ビーフは、海外でも注目を集めてるやろ。2年後にはオリンピックもある。その時に海外から来た人に喜んでもらえるようなものを提供したい。しかも高いお金を出してもらって食べてもらうんだから、満足してもらわなあかん。名ばかりにならんようにせな」とダブル受賞に甘んずる事なく、襟を正す姿勢が印象的です。

  • [太田畜産]
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引継がれる牛飼いの伝統

子牛のいる牛舎では、息子の太田海星さんと遭遇。彼が本格的に牛飼いの仕事を始めたのは4年前、15歳の時。2年前の取材時には克典さんの勧めで削蹄(さくてい/蹄のケア)の技術を携えて他の牧場に施術に行き、行った先で学ぶことも多い、と話していた海星さん。
この日は獣医師と共に、子牛の治療にかかっていました。牛の平熱は38.5〜39度くらいのところ、検温したところ39.6度と微熱らしい。そんな診察の様子を母牛が心配そうに見守ります。
「子牛は、寒くなったら調子を崩しやすいんです。豊岡の家畜診療所には、彼女を含めて6人の獣医師がいて、夜も飛んできてもらえるのでありがたいです」と話すので、出産時も同様かと尋ねると「出産は自分達の手で。僕もひとりで立ち合います。初産など自力でよう産まん場合は、足をひっぱり出すこともしますよ」と頼もしい言葉。最近では、出産のタイミングがわかるまでになったのだそう。
今でこそ軌道に乗っている繁殖ですが、実は去年までは難産が多発。その問題を解決したのが、海星さん。削蹄の仕事で行った先の繁殖農家でその話をしたところ「そりゃエサのやりすぎで、肥え過ぎや。産道に脂肪がついたら難産になる」と指摘を受けました。そこでエサの内容を変え、量も減らし、安産させることができるようになったのだそう。「父にはまだまだかないませんが、最近、買い付けの牛の予想もほぼ当たるんです」とにっこり。なるほど、克典さんの『牛飼いは背中を見て育つ』という言葉、着実に形になってきています。